昔話を良くするようになると、おじさんを通り越してもうお爺さんかもしれないけど、昨今のデジタル機器の進歩を目の当たりにすると昔を懐かしく思ってしまう。
あの時代にオートガイドがあったならどんなに天体写真が楽だっただろうか。
でも、あっても買えなかっただろうな。なにせ、ビクセンの暗視野照明ガイドアイピースさえ買えないから古いアイピースに接着剤伸ばして十字線を貼り、横に穴をあけてLEDを突っ込む。それで十分だった。
ミザールCX-150はレジューサーつけても860mmも焦点距離があり、最低でも20分露出くらい当たり前だから、その間はガイドアイピースからまったく目が離せなかった。手や足は凍りつき、ほとんど感覚が麻痺した状態だった。それでも根性で一晩に何枚も撮った。
撮影が終わると、暗室作業に入る。現像は温度を一定に保つのが難しかった。恒温槽など買えるはずもないから、液温が下がると、お湯を足して、暖めすぎると水をいれて。
現像が終わって、目的の天体が写っていたときの感動は今のデジカメの比ではない。場合によっては前夜の撮影の苦労がすべておじゃんになるかも知れないんだから。
現像が終わると、次は引き伸ばし作業。ここまで来ると一安心。これからはいくらでもやり直しがきく。
今で言う画像処理にあたるが、昔でも、コンポジットや覆い焼きはあった。
コンポジットは惑星などで流行っていた。画像を合わせるのが難しく、ちょっとでもずれると、滑らかにはなるが、逆に模様が消えてしまう。
覆い焼きは、月やカブリ補正で必ずやった。画用紙を丸や月の形に合わせてカットし、割り箸をつけて、それをかざす。夏の天の川などは中心部が飛んでしまうので小さい丸をまんべなく銀河中心に覆った。
こんなに苦労して仕上がった作品でも、所詮子供の作品。当時天文誌をにぎわせていたのは中版カメラや、シュミットカメラ。比べるまでもない。
でも自分なりに綺麗に撮れた時はほんとにうれしかった。パネルにして部屋に飾っていた。それで十分だった。
高校に入って地学部に在籍した。入部したのは私一人だったから、やがて部長になった。
高校の地学部は予算が与えられるから、フィルムや印画紙などは予算で購入できて少しは楽になった。
部の備品にマークXがあって、それをもって、近くの山へ一泊の合宿をするのが楽しみだった。
3年のとき、後輩を連れて、入笠山へ遠征した。入笠山は当時天文誌に紹介されてちょとしたブームだった。
当然徒歩で、やたら疲れたのを覚えている。
このとき見た星空はすばらしかった。星座の形が分からないほど星が見えた。今、これだけの星空が見える場所はあるのだろうか?
「ペンション星の家」をご存知だろうか。19才の夏休みに一ヶ月ほど働いたことがある。もちろん住み込み。日給は1500円だった。夜は星見ができるだろうと思ったが、仕事で疲れてそれどころではなかった。しかし、ここには50cm反射があって、一般客に見せるため良くガイドをした。正直なところこの50cm反射で見た星はほとんど記憶にない。たぶんじっくり観賞している余裕などなかったのかも知れない。
ここで働いている人は当然みな星好き。夜、飲みながらの仲間との会話は楽しかった。
望遠鏡業界も昔と今では様変わりした。特にビクセンの躍進とミザールの衰退は、驚いた。
ビクセンさんには申し訳ないが、昔のビクセンは子供でもとても買う気にはなれないメーカだった。
それよりも、怪しいメーカがいっぱいあって、自作部品の調達とか利用していたので、そちらのほうが親近感があった。天文誌に自社製品を酷評され、それにむきになって反論広告を出すメーカもあったが、自作部品の宝庫で何度も利用した。
自作は確かに昔の方が盛んだったと思う。天文誌にも自作コーナーがあって、タンジェントスクリューのポタ赤やアルミフレームの反射経緯台が流行っていたと思う。
当然それを見て自作したんだけど、それで実用になったものは何ひとつなかった。ただ作るのが楽しかった。
昔の憧れのメーカは、高橋、後藤、ペンタックスだった。これは今でも変わらない。
高橋のカタログはもうそれは穴が開くほど見入った。ただ、ただあこがれていた。
近くの湖のほとりで星見会があるというので、いってみた。そのとき、P2赤道儀にFC65をもってきた人がいた。
若い人だったが、やたら大人に見えた。高橋は大人のメーカだった。
バイトを始めて、ちょっとお金が貯まったので、やっとスカイキャンサーとFC50が買えた。
自分もこれで大人の仲間入りをしたわけだ。
しかし、このころになると、自宅近辺でやたら家が建ち、星が見えなくなった。車があるわけでもなく、また大学に入って、新しい生活になっていったので、星は遠のいてしまった。
やっと買ったスカイキャンサーはほとんど使わないまま押入れの中へ。
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あれから20年後、スカイキャンサーは復活し、最新のデジタル一眼レフカメラを載せて、星を追い続けている。
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