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2013年2月 8日 (金)

天体写真と総露出時間

最優秀受賞へのコメント、皆さん、ありがとうございました。その中で、「デジカメはもっと露出しようよ」という呼びかけに対して、多くの反響をいただきました。この件にかんして、ちょっと補足説明をしたいと思います。

私は、経験的に思う事なんですが、結局は天体写真の品質はその中に詰まっている情報量と思うんです。

天体写真の品質 = 情報量

つまり、いかに情報を集めて、情報ロスなく処理するか。これにつきると思うんです。
で、ここでいう情報とは、解像度の議論を抜きにすれば、光の量と同じだと思います。つまり

天体写真の品質 = 集めた光の量

で、集めた光の量は何に比例するかと言えば、

集めた光の量 = 総露出時間×センサーサイズ/F値の2乗

センサーサイズとF値は機材で決まってしまいますので、我々が考慮するべきは、総露出時間ということになります。結局、

天体写真の品質 = 総露出時間

ということになります。当たり前といえば、当たり前の結論です。もちろんガイド精度とかも品質には影響しますが、しかし、これらは情報ロスの方の議論になると思います。

(この天体写真=情報という概念はだいぶ昔、Yちゃんさんが最優秀の手記で言っていたことで、そのときは実感はなかったのですが、最近はなんか良く分かるような気がしてきました。やっぱあの人はすごい。)

さて、ここからが本題ですが、私の持論として、総露出時間が同じなら、その他の撮影パラメータ、手法、合成方法などはあまり関係ないような気がします。つまり一コマの露出時間やISO感度、コンポ枚数、モザイク枚数とか関係なく、単純に総露出時間で元画像のもつポテンシャルは決まるような気がします。

よく問題になるのがISO感度です。低感度か高感度か?
高感度になると当然ノイズは増えます。しかし撮影時間が短くなるので、多くの枚数撮影できコンポすればノイズは減ります。ですから結局同じことと思います。

ISO1600 10分 1枚
ISO3200 5分2枚コンポ

もちろん、厳密にデータをとり、客観的に比較すれば差はあるのかも知れません。ただ、私の経験上から言えば、そんな差はないような気がします。おそらく、ISO感度とノイズの量は指数関数の関係にあると思いますが、常用感度設定の範囲ならほぼ比例関係で近似できるのではないでしょうか。

もし、低感度の方が絶対的にいいというなら、みんな低感度で撮っていると思います。実情は低感度で撮っている人も居れば、私みたいに高感度で撮っている人も居ます。みんなバラバラということは結局はどうでもよいということではないでしょうか?(一時ISO100や200が良いという議論がありましたよね)

さて、ISO感度が決まれば、必然的に一コマあたりの露出時間が決まります。というのは、ヒストグラムの山を中央に持ってくるため、露出時間は自動的に決まります。ただ、ヒストグラムの山が中央というのも、あまり根拠はないのですが、私の経験をいくつか言うと。

一度、明らかに露出不足(山が左より)の画像と普通の画像をモザイクしたことがありますが、露出不足の画像はコントラストが高く(=階調が荒く)、うまくモザイクできなかったことがあります。

露出オーバー(山が右によりすぎ)の画像を真剣に画像処理したことがありますが、星の周りがすぐ飽和してしまって、星がシャープに処理できなかったことがあります。ただ星雲に関しては普通でした。

この経験から言うと、やっぱ中央がいいのかな、と思います。まぁ極端に左右によっているのは良くないでしょう。

さて、露出時間が決まれば、総露出時間を決めるのはコマ数(撮影枚数)になります。

ここで、持論ですが、私は常々次のように思っています。

コンポジットとモザイクは同等。

何が同等かとうとノイズレベルを含めたすべての品質です。私にとって、2枚の写真をコンポジットすることとモザイクすることはまったく同等です。ですから、2枚モザイクするなら、コンポ枚数は半分でいいと思っています。逆にモザイクしないなら、コンポ枚数を増やさないといけないと思っています。いずれにしても大切なことは総露出時間です。

このコンポジットとモザイクの同等論をノイズレベルから見ていきましょう。

2枚の写真を加算平均するとノイズレベルは半分になります。

次に2枚の写真をモザイクします。そうすると画素数は2倍になります。ここで1/2にビニングするとします。ビニングするということは隣のビットと加算して平均することですから、ノイズレベルは半分になります。したがって、加算平均と同じです。

私はビニングしないと言うかも知れません。しかし、人間の目は1ビットは見分けられません。人間の目は数ビットあるいは数十ビットをひとまとまりとして認識します。したがって、これは加算平均していることと同じです。

つまりノイズレベルに関してはコンポジットとモザイクは完全に同等です。階調に関しても似たような議論で同等といえますが、これ以上理屈っぽい話をすると引かれるので、もうやめます。

コンポジットは情報の時間的集積です。モザイクは情報の空間的蓄積です。どちらも情報量は同じです。

総露出時間をかければかけるほど、情報が画像に蓄積されていきます。たくさんの情報をもった画像は、すばらしいポテンシャルをもっています、そして処理しだいで、どのようにでも変形できます。淡い星雲を出すのもよし、階調を豊かにするのもいいです。たくさんの情報が詰まっているからこそ、何でもできるのです。そして、たくさんの情報を持った画像は処理が楽です。

画像処理はへたくそなほど情報ロスを起こしやすいのですが、もともと情報量が多いので、多少のロスは我慢できます。

この感覚というのは実際にやってみれば体験できると思います。一度だまされたと持って、やってみて下さい。ほんと画像処理が楽ですよ。画像処理に2時間かけるなら撮影に2時間かけた方がよっぽどいいです。

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コメント

なるほど~
分かり易い解説、ありがとうございます。
私もこれからは総露出時間を増やした撮影に変えて行きたいと思います。

1つ質問です。
私はヒストグラムの山が中央で無く、左寄り2/5のところになるように露出時間を決めています。
これはステライメージのガイドブックに「山の左側はノイズ部分、右側は天体の情報なので、天体の情報を無くさない為にも中央より左寄りが良い」と書いて有ったからです。
実際にはレベルを切り詰めるので、中央でも問題ないと思いますが、左側がノイズ部分ならば出来るだけ中央に近い左側が良いと思いますが...この辺りはどうなんでしょうか?

投稿: ダイナ | 2013年2月14日 (木) 16時39分

ダイナさん、
まずヒストグラムの左側がノイズというのは、違うと思いますよ。
ノイズのある元の画像と、加算平均で十分ノイズをとった画像のヒストグラムを比べても、ほとんど違いがわかりません。ノイズのようなものは、ヒストグラムにはほとんど影響はないと思います。
また、ノイズ=低輝度というのも違うような気がします。ホットピクセルのような高輝度のノイズもあるだろうし、低輝度のノイズでも背景の全体のレベルが上がっていれば結果として、ノイズも高レベルになります。

投稿: ほんまか | 2013年2月14日 (木) 22時56分

それでは、ヒストグラムの左側が何かというと、
フラット補正していない場合はほとんど、周辺減光と思います。
フラット補正している場合ですが、
星雲の面積が少ない広角系の星野写真の場合はヒストグラムの左側はすっぽり切れていて、絶壁になっているのが普通です。ですから、ヒストグラムの左側はありません。
左側がなだらかになっている場合は、それは写真の占めるうち星雲の面積が大きい場合でそれは星雲の階調を表しているので大切にしないといけません。

投稿: ほんまか | 2013年2月14日 (木) 23時02分

で、やっと本題のヒストグラムの山の位置の問題ですが、
ヒストグラムの山の位置が右側にあるほど、山は太っていますから、それだけ情報が豊富、つまり階調が豊富なのでそれは良いことになります。
たとえば山のピークが1/4にあるヒストグラムと、山のピークが中央にある場合を比べると、中央にある場合の方が太っています。ですから、中央にある方がよいです。
これは露出時間が長い方がいいと言っている事と同じですから、当たり前といえば当たり前です。

投稿: ほんまか | 2013年2月14日 (木) 23時07分

山のピークが1/4にあるヒストグラムをレベル調整で中央に持ってきたらどうでしょう。確かに山は太りますが、スカスカの階調になります。つまり画像が荒れます。これでは意味がありません。

次に、山のピークが1/4にある画像を2枚、加算コンポして中央に持ってきたらどうでしょう。この場合は、階調はスカスカになりません。

つまり要約すると、ヒストグラムの山のピークがどこにあるのが良いのかという問題は、
露出10分の一枚画像と
露出5分2枚加算コンポの画像の
どちらが良いかという問題とまったく同じです。

投稿: ほんまか | 2013年2月14日 (木) 23時13分

で、私の結論なんですが、極端な例を除いて(たとえば露出1分未満とか)
どちらもほとんど一緒。
というのが私の感想です。もちろん飽和がないことが条件ですが。

つまり、総露出時間が同じなら、その他のパラメータはあまり関係ないという私の持論はここでも効いてきます。
もちろん科学的ちゃんと検証すれば違うのでしょうけど、感覚的には同じという感じです。

すみません、説明が長くなってしまいました。

投稿: ほんまか | 2013年2月14日 (木) 23時17分

お返事が遅くなり申し訳ありません。
すごく分かり易い説明をしていただき、ありがとうございました。
確かに夏場に撮ったダーク画像は、全体的にノイズが乗ってるのでヒストグラムが右寄りになってるのを思い出しました。
やはり山の左側にノイズが乗ってると言うのは間違いのようですね。

それからコンポジットの加算と加算平均も結果的には同じと言う事も書いて有りますが、ほんまかさんは加算コンポジットをお使いですか?

投稿: ダイナ | 2013年2月21日 (木) 17時00分

ダイナさん、
加算コンポジットは全部加算した後に、レベル調整をするなら、加算平均コンポジットと結果的に同じことです。
ただし、加算した後にデジタル現像するなら結果は違ってくると思います。
私の認識ですが、
加算平均コンポジット=ノイズをとるためのコンポジット
加算コンポ+デジタル現像=淡い部分の輝度を高くするコンポジット
という認識です。

投稿: ほんまか | 2013年2月21日 (木) 17時40分

それで私はというと両方を組み合わせています。
まず、ISO3200の場合は8枚ずつ、ISO1600の場合は4枚ずつを加算平均コンポジットします。これで十分ノイズがとれるはずです。
次に、こうしてノイズをとった画像を2枚ずつ組にしていき、加算コンポ+デジタル現像をしていきます。これを何回も繰り返します。一度に全部加算するのではなく、2枚ずつ、トーナメントにして加算、そしてデジタル現像していきます。
これを繰り返しますと、淡い部分がどんどん出てきます。

投稿: ほんまか | 2013年2月21日 (木) 17時44分

この処理で注意することは、
最初の加算平均コンポで十分ノイズをとることです。
ノイズが残っていると、淡い星雲と一緒にノイズまで強調されますから、ざらざらの画像になります。
また、加算コンポ+デジタル現像する場合は、
画像に周辺減光やカブリがあってはダメです。特にカブリは大敵で、カブリをとってからやらないと大変なことになります。

投稿: ほんまか | 2013年2月21日 (木) 17時47分

たとえばISO1600で、加算コンポ+デジタル現像を2回繰り返すとなると、
最低でも4枚×2×2=16枚
撮影する必要があります。
ISO3200なら、32枚撮影する必要があります。
露出時間が10分なら320分=5時間20分必要です。

投稿: ほんまか | 2013年2月21日 (木) 17時50分

なるほど~
加算平均と加算+デジ現の組み合わせをされてるんですね。
私はステラのガイドブック通りに、通常は加算平均、M42など輝度差が有って露出を変えた時だけ加算平均と加算を組み合わせてました。
今回、ほんまかさんのコンポジット法をご教授いただきましたので、次回はこの方法で処理してみます。

> 露出時間が10分なら320分=5時間20分必要です。

なるほど...この方法だと私の主砲(口径110mm、F5.6)の場合、トータル8時間露出が必要と言うのも納得が行きました。
何か、これからの遠征が楽しみになって来ました。
ありがとうございます(^_^)

投稿: ダイナ | 2013年2月22日 (金) 16時07分

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