【新連載】ガチ検証、天体写真実験室 初回
不定期の新連載スタートです。その名も、「ガチ検証 天体写真実験室」。
天体写真やってると、確固たる根拠があるわけではないが、何気なく、なんとなく決めてることがあります。たとえば、
●ISO感度はいくつがいいの?
●適正露出の範囲は?
●コンポジットで何枚撮れば、いいの?
●ダークは何枚撮ればいいの?
こういった疑問に、ガチで写真を撮って検証してみようという企画です。
ただ、こういった検証は今までにもありました。しかしながら、形式的な実験的なものが多く、いまいちピントきません。たとえば、ISO感度別のノイズに関しても、
天文誌などは新しいカメラが出ると必ず、感度別の写真が載っていて、ISO800、ISO1600、ISO3200。。。感度が上がれば、ノイズが増えるのはあたりまえで、これを見せられたって、じゃ、いくつで撮るのが最適なの? と思ってしまいます。
また、ノイズの比較もダーク画像だけの比較で終わってしまうのがほとんどです。ダーク減算やるのが前提なら、ダーク減算後の画像が重要であって、ダーク減算前の画像を見せられても、じゃ、どうなのって感じです。
そうではなく、実際に本気で、たとえばフォトコンに応募するつもりでちゃんと撮影して、ちゃんと画像処理して、それでどれだけ差が出るかが重要なのです。
たくさんコンポして、強調処理して初めて分かることもあります。
逆に、ノイズなど差があったとしても、A4またはA3プリントで差が出なければ、同一とみなしてもいいと思いますし、ダーク減算して除去できる程度の差なら、それを問題にしても意味ないでしょう。
ということで、実際に天体写真の作品を作る上での差がどれだけあるのか、それを検証するのが、この企画です。初回のテーマは、ずばり、
「ISO感度はいくつで撮るのがいいの? 低感度? 高感度?」
デジカメのISO感度議論は昔からあり、なんとなく、決着がついたようなつかないような。私が今まで見たり聞いたりしてきた説は以下のようなものがありました。
1 低感度優位説
とにかく低感度、長時間露出がいい。昔、はやった説です。今はあまり聞きません。デジカメが出始めのころは確かにノイズが多かったのでこのような説が出るのは当然と言えば当然です。
低感度優位説の中でも特に低感度、ISO100で撮るのがいいという説が一時ありました。センサーの基本感度は決まっているのだから、それ以上の増感はカメラに任せるより、画像処理でやった方法がいいという根拠です。最近はISO100とか聞きません。これを主張していた人も、結局すぐにISO1600に戻していたので、効果のほどはなかったのかも知れません。
2 輝度基準説
輝度が同じなら、画像の品質は同じというもの。たとえばある被写体をISO800、8分で撮ったとします、これと同じ輝度にするなら
ISO 1600なら4分
ISO 3200なら2分
これらはすべて、品質的に同じというもの。
一見、もっともらしい説ですが、これは高感度優位説に他なりません。同じなら、高感度で撮った方が、露出時間は短くすみますから、コンポ枚数を稼げます。したがって、できるだけ高感度で撮るべきです。私の経験的には、これはないと思います。
3 弱い不変原理
トータルの露出時間が同じなら、品質は同じというもの、たとえば、
ISO800 8分×8枚=64分
ISO1600 4分×16枚=64分
ISO3200 2分×32枚=64分
同じなら、なるべく高感度で撮った方が、失敗リスクは減らせます。コンポ枚数は増えますが。
私は、これが本命と予想します。今回、これの実験をします。
4 強い不変原理
弱い不変原理をさらに推し進めて、1枚あたりの露出時間が同じなら、ISO感度には関係ないというもの。もちろんトータルな露出時間が同じならISO感度に関係なく品質は同じ。
これが正しいとすれば、ISO感度にはなんの意味もありません。ISO感度のダイヤルは単にレベル調整であり、プレビューをモニタに表示するときの調整ダイヤルでしかありません。
これを言ったのは、ある某有名大御所の方ですが、最初聞いたとき、そんなことあるかと思いましたが、よくよく考えると否定する根拠もないですし、冷却CCDにはそもそもISO感度なんてありませんから、あながち間違っているともいえません。
検証
昨晩は良く晴れたので、湯沢に撮影に行ってきました。今回上記の3を検証します。3が正しいなら1、2は否定されますが、4は否定はできません。ただ、この企画、一回だけの検証では何かを断定するつもりはありません。条件を変え、複数回繰り返し、最終的な判断をしたいと思います。ですから、今回はあくまでもたった一度の検証結果です。
使った、機材はApo Sonar+EOS 6Dのツインシステムです。片方はISO800で、片方はISO3200で撮りました。
まったく同じ時間、同じ対象を撮るわけですから、これ以上の比較方法はありません。
さて、昨晩は湯沢についたときは雨が降り出すしまつでしたが、なんとか、30分だけ撮影ができました。ほんとは、3時間の予定でしたが。
ISO800は8分4枚
ISO3200は2分16枚です。
結果
まずは元画像です。ISO800がこれ
ISO3200がこれ、どちらもレベル調整で[80 - 160]に切りつめています。
輝度がISO800の方が高いです。色合いも同じように現像したのですが、異なっています。
次にフォトコンに応募するつもりで本気で画像処理した結果です。ISO800、
ISO3200。
何かしらの違いがあるのは確かですが、ただ優劣をつけらるような違いではありません。
結果画像です。アップできるファイルサイズに限度があるので、解像度落としています。ISO800、
プリントして比較してみましたが、諧調やノイズなど、何らかの違いは見つけられませんでした。
ISO800とISO3200では大した差はないようです。ISO400と、ISDO6400ならどうか? むしろ、差が出る限界のISO感度を知りたいですね。上限と下限はどこか?
あと、もっと淡い対象ならどうかも気になります。極限まで強調すれば差が出るか。
ISO感度の検証はまだまだ続きます。
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コメント
これは興味深い検証ですね。僕は何となくISO3200で撮影していましたが、結果次第では考え直さないと。とはいえ結果を見ると、弱い不変原理がもっともらしいようです。
一つ気になるのは全く同じパラメータで現像したにもかかわらず、ISOによって輝度が異なることです。単純にISOを4倍にしたからと言って、感度が4倍にならないのでしょうか。それともカメラが違うので、センサーの個体差を反映しているのでしょうか。個体差ならISOの設定を逆にすればわかりますが、個体差というには差がありすぎる気もします。
他にも適正露出などの問題も興味深いですね。結局のところ、撮影する対象や空の状態にも依存すると思うので、適切に選択する必要がありそうですが。
投稿: enif883 | 2016年5月 5日 (木) 21時27分
enif883さん、輝度の差は、レベルをだいぶ切り詰めていますからね。実際はほんのわずかの差です。
ただ、ヒストグラムを見ると低感度の方が山の幅が広いので、低感度長時間露出の方が、ポテンシャルが高いのかも知れません。
問題は、その差が、作品作成上どれほどの違いをもたらすかというのが、この企画の趣旨です。けして、科学検証ではないんですよ。
私の予想では、ISO6400くらいまでは普通にいけそうですが、その上くらいから破綻しそうです。
適正露出は、これは私も興味あり、どこまでアンダーが許されるか、実に興味深いです。
投稿: ほんまか | 2016年5月 5日 (木) 22時02分
ほんまかさん、こんばんわ。
ガイド撮影を始めたばかりで、ついついガイド時間がどれだけ伸ばせるかという主観になりがちでした。興味深く読ませて頂いてます。
私も皆さんの作例など参考にして無意識に3200、空が明るい時は1600で撮影していました。まだまだ色々やらないとデータが積みあがらない状態ですが、こういった検証は私の様な初心者にとっても大変参考になります。
検証の続き、楽しみにしておりますね。
投稿: 天文部部長 | 2016年5月 6日 (金) 00時42分
ほんまかさん、初めまして。
昨晩遠征の帰りに、ほんまかさんとよっちゃんさんのトーク(2014年6月)を聞いていて、そこで過去のほんまかさんの作例の話題が気になって、その作例を確認のためにこのブログをひらいたところ、なんと興味深いテーマが載っているではありませんか。しかもアウトプット時点での影響を検証するというガチの企画。私は6Dで直感的にISO3200が一番効率的と信じて常用してますので今回の結果で少し安心しました。今後も楽しみにさせていただきます!
投稿: P-2 | 2016年5月 6日 (金) 13時28分
天文部部長さん、P-2さん、
ありがとうございます。
そうそう、みんなそうなですよ。みんな、なんとなくモヤモヤしてるんですよ。それをはっきりさせようというのがこの企画です。
今後も、徹底的に検証していきますので、お楽しみに。
投稿: ほんまか | 2016年5月 6日 (金) 14時46分
ナイス企画。うーむ、やられたー。
投稿: よっちゃん | 2016年5月 6日 (金) 18時54分
某有名大御所さん、こんちは。
今度、デジカメ論争やりましょう。
投稿: ほんまか | 2016年5月 6日 (金) 19時26分
こんばんは~
興味深い内容ですね。
こちらの記事と同様に天文マイコン道も楽しみに見ています。
ISO感度の高いカメラに買い換えた時の参考にさせていただきます。
投稿: B.S.Revolution | 2016年5月 7日 (土) 02時09分
B.S.Revolutionさん、ありがとうございます。
最近はどのカメラもISO感度高いですよね。
昔のカメラかな。
今後もご期待ください。
投稿: ほんまか | 2016年5月 7日 (土) 10時59分
興味深い企画ですね。
期待してます。
個人的には、感度を上げると表現できる階調の幅が荒くなり、階調の幅は同一露出の多枚数コンポジットでは補えず、多段階露出まで行って膨大な量を合成しなければ等価にならないのではないか、と考えています。
これは、比較的コントラストの高い被写体を軟調仕上げしたときに差が出るかどうか、だと思っていますが…
思っているだけで検証はできていません。(笑)
投稿: HUQ | 2016年5月 9日 (月) 14時30分
>比較的コントラストの高い被写体を軟調仕上げしたときに
逆です…すみません。
コントラストの低い淡い被写体を持ち上げてトーン強調したとき、一面ノッペリとした仕上がりになるか、階調豊かな仕上がりになるか、ですね。
投稿: HUQ | 2016年5月 9日 (月) 16時25分
HUQさん、
私も極短な高感度ではそのようになると思います。
実際、α7sで試したのですが、あまり高感度では
何枚コンポしてもザラザラでした。問題はその値がいくつなのかですね。
投稿: ほんまか | 2016年5月 9日 (月) 18時03分