前回のデジカメガチ検証企画に続いて、天体写真を科学的に評価してみようという試み。
今回は、ヒストグラムについて考えてみたいと思います。
ヒストグラムというのは、画像の輝度分布グラフです。画像全体のマクロな統計データです。したがって、画像の細かなことまでは何もわかりませんが全体としての傾向を知ることができます。
ここで、天体写真を分析すると、3つの要素に分かれることが分かります。
1 背景
2 星雲
3 星
星は、画像全体に占める割合が少なく、ヒストグラムに与える影響はほんのわずかです。ですから、ヒストグラムからは星については何も分かりません。
星野写真や、系外銀河の写真は、背景がほとんどを占めます。したがって、ヒストグラムの山は背景が支配的です。
星雲写真の場合は、背景に加えて、星雲独自の影響が出てきます。
これを分かりやすいように検証してみた図がこれです。
ちゃんとフラット補正された背景だけのヒストグラムは細い棒状になり、これがベースになります。背景はフラットがきちとんとされていれば、山の左端はほぼ垂直になります。
これに星雲が重なると、山のピークが右に移動し、山が太っていくのが分かると思います。
以上を踏まえて、ヒストグラムの見方を簡単に説明すると次のようになります。
①背景 山の左端は背景レベルで、背景がニュートラルグレーなら三色は一致しています。
②ピーク 山のピークは、画像全体の明るさで右に行くほど全体的に明るい画像です。
③山の幅 山の幅が広いほど、コントラストが高く、諧調の幅を有効利用していて、見ごたえのある画像ほど幅が広い傾向がありますが、逆は必ずしも真ではありません。たとえば、周辺減光がひどい画像のコントラストをそのまま上げれば、山の幅は広くなりますが、けして美しくはありません。
また、星野写真や系外銀河の場合はほとんど背景なので、山の幅は狭いです。
次に美しい天体写真のヒストグラムに何か規則性はあるのか、調べてみました。
私が、ネットを徘徊して、美しいと思う天体写真を勝手に集め、ヒストグラムを調べてみました。
また、それとの対比で初心者が多く投稿するサイトから、無作為に画像を集め、ヒストグラムを調べてみました。ここから何がわかるか。
結果をみる前にヒストグラムの見方で注意してほしいことがあります。
一番大事なことは、ヒストグラムは結果であって、ヒストグラムが目的ではありません。
タイトルにあるように美しい天体写真のヒストグラムは美しいのですが、ヒストグラムが美しいからと言って、美しい天体写真とは限りません。
星雲が画面全体を占める天体写真の場合は、ヒストグラムの背景成分は少なく、形の崩れや色の偏差が大きいです。一方、星野写真や系外銀河の場合は背景が支配的で、山の形の崩れが少なく、色の偏差も少ないです。
以上を踏まえて、私が集めた美しい天体写真のヒストグラムの一部をご覧ください。
ベテランさんの美しい天体写真の特徴。
1 まず、背景がほぼニュートラルグレーです。
2 色の偏差が少ないです。赤い星雲の写真でも赤の偏差はこの程度です。色の偏差が少ないからと言って、カラフルではないというとではありません。
ベテランさんの画像はどれもみなカラフルです。色の偏差が少ないからこそ、そこからはみ出した色がとてもカラフルに強調されるのでしょう。
3 背景のレベル、ピークの位置がその人個々の作品によって違いはなくどれも同じです。
これは特筆すべきことです。しっかりした処理フローと評価基準があるのでしょう。あと、プリントしてフォトコンに応募することも影響していると思われます。
もちろん、人によってそのレベルは違います。Cさんのヒストグラムは山が全体的に左よりで暗めの写真ですが、背景が引き締まっていて、とても美しい写真ばかりです。
Aさんは全体的に山が右寄りの画像が多いのですが、アンタレス付近だけ、輝度0から勝負している感じで、Aさんのアンタレス付近にかける気合を感じます。ほんと美しい写真です。暗黒星雲のある画像はこのように0から始まるものが多いです。
4 私が一番感心したのは、ベテランさんの作品はどれも、ヒストグラムの山の左端の立ち上がりが滑らかで微妙に乱れています。
これは、背景のならし処理、たとえば、ヒストグラムの左端を上げて寝かす処理や、背景の彩度を下げる処理、このようなごまかしをやっていない証拠です。私はたまにこのようなごまかしをするのですが、M45のヒストグラムのように左端がもっと奇麗になります。ですからすぐばれてしまいます。
とにかく、背景から星雲の淡い部分の表現を重要視しているのが分かります。そしてこれができるのはフラットなどしっかりした下処理が出来るからこそでしょう。
次に対比として初心者さんのヒストグラムを見てみましょう
1 全体的に山が左寄りで、暗いです。
これは、コントラストを上げたいのですが、周辺減光やカブリの影響で暗くせざるおえないという事情でしょう。
特に、ヒストグラムの山の左端が完全に切られている画像が多いです。これも、やはり周辺減光やカブリをうまく処理できず、暗くしてカットしてしまっている結果と思います。
2 一番最後のはくちょう星野は、ヒストグラムだけみると奇麗なのですが、山が高輝度部まで続いているのは天体写真としては不自然です。実は、カブリや、周辺減光の過補正がある状態でコントラストを上げてしまった結果で、写真は美しくありません。
こうして見ると、初心者さんの課題は、とにかく、周辺減光補正とカブリ補正のやり方をいち早く覚えることでしょう。
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