赤道儀とモーターの話、その1
年末です。
今年も粛々と年を終わろうとしてます。このブログも、すっかり業務報告ブログになってしまうのもさみしいので、年末ぐらい、少し役立つ情報を提供していけたらと思います。
そこで、CANP'17の講演の内容で、ぜひ聞きたいという話に、モーターの話がありましたので、ここで赤道儀とモーターの関係についてお話ししたいと思います。
2回に分けて、赤道儀とモーターの関係をお話ししたいと思います。一回目は、最近よく聞く「マイクロステップ駆動」のお話。マイクロステップ駆動が普及したおかげで、ユーザ側には二つの恩恵があったと思います。
1 自動導入が身近になった。(最近はSkyWatcherにみるように、エントリー機でも自動導入が普通になりました。)
2 赤道儀のバックラッシュが減った。
これがどうマイクロステップと関係するのか、説明したいと思います。
2回目は、1回目の話を元に、これも最近よく聞く「ハーモニックドライブ」の話です。ハーモニックドライブを使った赤道儀と言っても、私の知る限る3種類くらいのタイプがあると思います。それぞれ異なる特性があるのですが、ハーモニックドライブを使った赤道儀というだけで、バックラッシュゼロとか、あまり良く理解されていないところもあるので、このへんの説明をしたいと思います。
それでは、マイクロステップ駆動のお話しです。赤道儀というのは、下図のようにモーターの回転を、中間ギアで減速し、さらにウオームギアで減速する減速機構と見ることができます。
中間ギアはモーターに内蔵されることもあります。また最近は中間ギアにバックラッシュの少ないタイミングベルトを使うこともあります。
話は少しそれますが、赤道儀で問題となるバックラッシュのほとんどはこの「中間ギア」で発生します。モーター自身はパルスモーターの場合、バックラッシュはありません。ウオームギアは良く調整されたギアの場合、ほとんどバックラッシュはありません。ただ、編芯とかあると緩いとこときついところとムラができ大きなバックラッシュが発生する場合があります。
10万円以下の安価な赤道儀と、30万クラスの赤道儀では、けっこうこの差が大きいです。高い赤道儀には高いなりの理由があるんですね。私もSS-one化改造でいろんな赤道儀を手にするようになってその差を実感するようになりました。
中間ギアの最悪は、モーター内蔵型です。黒いハイブリッド型ギア内蔵モーターの場合はまだしも、安い丸い形のPM型の内蔵ギアは特にバックラッシュが大きいです。
さて、赤道儀を減速機構とみる場合、中間ギアの減速比とウオームギアの減速比をかけ合わせたものは、トータル減速比となります。
トータル減速比をいくつにするか、赤道儀設計では実に悩ましいです。SS-oneの場合、800~1500くらいにしてます。SkyWatcherの場合、EQ3からEQ6Rまで赤道儀の大小を問わず、700ちょっとくらいです。モーターコントローラとの相性もあるので、絶対的にこの値が良いとは言えません。
そこで、この値をいくつにするか、理論的に考えてみます。まずは、「角分解能」という観点から。「角分解能」とは、モーターに1パルス送ると何度回転するかという最小角度です。
最小角度を何秒に設定するか、これも悩ましいですが、仮に大甘の設定で0.5秒としましょう。ハイブリッドタイプのパルスモーターの場合、200パルスで1回転ですから、トータル減速比は、
360度×60分×60秒÷200パルス÷0.5=12960
となります。ウオームホイルの歯数を144とすると、中間ギアの減速比90になります。
次にこのトータル減速比12960を自動導入の導入速度(恒星時の何倍か)の観点から考えてみます。早く言えば、何倍でるかです。
以下のモーターの回転数の特性表を見てください。
これを見ると、パルスモーターの場合、せいぜい10,000ppsくらいしか回らないことがわかります。実際には良くて4,000ppsくらいです。ハイブリッド型の場合、200パルスで1回転ですから、1秒に良くて20回転です。
これをトータル減速比12960にあてはめ、対恒星時で速度を出すと、
(24時間×60分×60秒)/12960×20回転=133倍
ということになります。最小角度を大甘の設定で、モーターの回転数を最良で考えてもこれだけしか導入速度が出ないのです。
角分解能を高くしようと思えば、トタール減速比は大きくしたい。一方、導入速度を早くしようと思えば、トータル減速比は小さくするしかない。つまり、角分解能と、導入速度はトレードオフの関係にあるわけです。
以前は、このことがあるので、パルスモーターは自動導入赤道儀には不向きでした。DCモーターかあるいは、非常に高価な赤道儀に限られていました。
この矛盾を解決するのがマイクロステップ駆動です。マイクロステップ駆動自体は太古の昔からありましたが、値段は高いは、かさばるし、電圧は高いし、あまり普及していませんでした。ところが最近は、すべてがワンチップ化され発熱も少なく、電圧も低くて、値段も安くなってきました。これで一気に普及しました。
マイクロステップ駆動とは以下のようなものです。
普通は、パルスモーターはその名の通り、0か1のパルスを送るのですが、そうではなく、階段状のサイン波を送ります。従来は単純な0か1でしたが、マイクロステップの場合はその中間があるので、モーターの動きをさらに細かく刻むことができます。これはちょっとアナログ的な考えです。
このさらに細かく刻む分解能は数十から数百で、SS-one AutoGuider Proの場合、1/128です。
これは、最小角度の計算で、200としていたところを200×128にできるのです。つまり、トータル減速比はそんな大きな値にする必要がなくなったのです。仮ににトータル減速比を1/10にしても、まだ最小角度は1/12.8より小さくなります。マイクロステップのアナログ的なばらつきを考慮しても十分な精度です。
ということで、マイクロステップ駆動の普及により、めでたく、パルスモーターでも精度と導入速度の両立ができたわけです。ひいては、安価な赤道儀でも自動導入の恩恵にあずかることができるようになったのです。
。。。
トータル減速比を小さくできるということは、中間ギアの減速比を小さくできる、つまりバックラッシュの大きい、ギア内蔵型のモーターを使う必要がなくなったわけです。さらに中間ギアにベルトドライブを採用することも可能になり、赤道儀のバックラッシュは昔に比べて大幅に減りました。これもマイクロステップ駆動のおかげです。
今日はここまで。
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コメント
ほんまかさん、ありがとうございます、大変参考になります。
時代の変遷ですね、GPDのように古い機材に固執するのはよくないですね、おしゃるとおりだと思いました。
GPDをss-one使用にすれば解決できそうですね。
露出ケーブルを減らすため、コントローラーを内蔵できてwifiで操作できるようになれば最高のように思いました。ZWOのairがそれにちかいのかなあ、、、。
ハーモニックドライブお話し期待しています。
投稿: 夜空の通行人 | 2018年12月25日 (火) 19時46分